緑内障と診断された方は必ず行う検査の一つにハンフリー視野検査があります。
正確には、ハンフリー視野検査ではなく静的視野検査と言います。
ハンフリーとはカールツァイス社が生産している視野計の名前です。
世界中で最も使用されているので、俗に静的視野検査をハンフリー視野検査と我々は言っています。
緑内障患者の皆さん、このハンフリー視野検査好きですか?
おそらく好きな方はいないと思います。
上手くできているかも分からないし、疲れるし、視野検査の結果で治療方針や手術が決まりますからね。
僕はは一応眼科の検査の専門家の視能訓練士ORTですが、難病がありそれが原因で緑内障になりました。
僕はこの緑内障の視野をずっと研究していると共に、患者としてハンフリー視野検査を定期的に受けています。
検者と患者の両方において一応スペシャリストなので、ハンフリー視野検査のコツをお話ししたいと思います。
緑内障患者さんに対する視野検査のコツだけではなく、検査をする看護師や視能訓練士が患者にどう伝えられたら良いかも勉強になると思います。
緑内障患者さんに向けたハンフリー視野検査のコツ6選
この記事を書いている僕のプロフィールです
- 眼科の検査の専門家の視能訓練士歴約20年
- 緑内障の視野検査の研究を15年やっている医学博士
- 自分自身も続発緑内障で視野検査を何回も受けている
自分で言うのなんですが、一番信頼性の高い内容だと思います!
1.事前の体調管理
ハンフリー視野検査は、片目5分~10分の間見えた光に対して応答し続ける単調な検査です。
集中力が必要とされるのですが、単調な検査でもあるため、時に眠気に襲われます。
眠気がある状態で検査を続けると結果が悪く出ます。
その原因は、実際に見えるはずの光の明るさに反応しないため感度が悪く出るからです(偽陰性反応)。
心がけること
① 検査前日は良く寝る
② 検査が食後の場合お腹一杯食べない
我々視能訓練士も患者さんが眠くならないように部屋を少し寒い状態にキープしていますがどうしても眠気を感じることもあります。
そういった場合は応答ボタンを押しっぱなしにすると患者側から検査を一時中断できます。
ボタンを押した状態で顔を外し検査員に正直に「少し休ませて下さい」と伝えましょう。
視能訓練士が機械を一時中断してくれます。
ただ、視野検査は時間びっちりに予約が入っているので、休憩ばっかされたら大迷惑です。
こういったことが起こらぬようご自身で体調を整えておきましょう。
2.台の高さは拘ること
検査している時の姿勢は結構重要です。
丁寧な検査員であれば「もう少し高い方が良いでしょうか?低い方が良いでしょうか?」と答えやすいように聞いてくれます。
しかし、忙しくて少し雑になると「高さ大丈夫ですか?」と意見を言いにくい聞き方をしてくることもあります。
でもここは遠慮せずに姿勢が一番楽になる高さをリクエストしてください。
顎が浮いたり、おでこが離れたり、顔が傾くと刺激したい部位がずれてしまい、結果が変わってきてしまいます。
少しくらい大丈夫でしょ?と思うかもしれません。
しかし、測定点プログラムにもよりますが、細かいプログラムでは眼の中の2°間隔という極めて細かい間隔を検査しています。
顔の動きが大きいとと目の中の刺激部位がずれて結果の変動に影響します。
顎を台にどしっと載せて、おでこをピタッと前につく高さに合わせてもらいましょう。
3.両目開けた状態で検査をする
検査をしていない目にはガーゼを貼って検査をしますが、ガーゼが気になって片目を閉じながら検査する方がいます。
しかしこれをすると検査している目も細くなるので上下の視野の感度が悪くなることがあります。
また5分~10分力を入れて片目を閉じていると、顔の位置がずれます。
そうすると、刺激したい部位に刺激ができなくなり結果がばらつきます。
ガーゼが気になっても実際に視野の感度には大きな影響はでません。
両目大きく開けながら検査をしてください。
このように片方の目の映像が映る現象をブランクアウト現象と言います。
ブランクアウト現象は意識的にまばたきをすると消えます。
ガーゼの視界が気になったら意識的にまばたきをしましょう。
4.まばたきは我慢しない
ヒトは平均すると3秒に1回瞬きをしていますが、集中すると20秒に1回くらいになります。
かなり減るのが分かると思います。
瞬きには2つ大きな役割があります。
1つ目の役割は涙の状態を安定にすることです。
涙の状態によっては視界がかすんだりして一時的に見づらくなります。
視野検査中に瞬きの回数が減り涙目になると結果が悪くなります。
逆に乾いてしまっても結果が悪くなります。
検査中意識して瞬きをしてください。
2つめの役割は視界のリセットです。
よく集中すると周りが見えなくなると言いますが、これは集中によって瞬きをしなくなり、周辺の視界に抑制がかかっている状態です。
すなわち、見ている物をより鮮明に見るために周辺の視野の情報を脳がシャットダウンしてしまいます。
上記で述べたブランクアウト現象と同じく、このシャットダウンはまばたきによって解消されます。
視野検査の時にこの周辺視野のシャットダウンが起こらないようにまばたきをして視界のリセットを繰り返さないといけません。
つい緊張と集中でまばたきが減るのですが、常に意識してまばたきすることが重要です。
まばたきのコツは、ボタンを押すのと同時にまばたきをすることです。
そうすると、光が出ている時にまばたきが一緒になり見逃すことが無くなります。
因みに、まばたきの速度の方が視標呈示時間より速いのであまり心配しないでください。
勿論、ぎゅーってするまばたきをすると視標呈示時間の方が速くなるので気を付けて下さい。
5.何が何でもキョロキョロしない
ハンフリー視野検査(静的視野検査)では色々な所に色々な明るさの視標が呈示されるので、本当に見えたか確認のため視線を動かしたくなると思います。
でもそこはぐっとこらえて下さい。
何故なら、ハンフリー視野検査(静的視野検査)は、予め決まった測定点を検査しているからです。
ちょっと専門的な事なのですが、以下のような測定点を検査しています。
検査中は色々な所に沢山視標が出ているので分からないと思いますが、実は1つの測定点に3~5回色々な明るさの視標が呈示されています。
そうすることによって、どの部位にどの程度の感度低下があるのか分かります。
しかし、検査中に視線が動くと同じところを刺激できなくなります。
その結果、
① 実は初期の感度低下があるのにその感度低下が検出できない
② 実は正常視野なのに誤って感度低下が検出される
といった事が起こります。
②は専門用語で偽陰性というのですが、この場合は再検査するので不幸中の幸いです。
①の場合は偽陽性というのですが、こうなると異常を放ったらかすことになるので問題です。
どちらになるかは分かりませんので、検査中は何が何でもキョロキョロしてはいけません。
6.なんとなく見えたらボタンを押す
薄暗い視標は見えたという自信がないから応答しない方が良いと思っていませんか?
実はこれは間違いで、何となくでも感じた視標に応答しないと真の結果は出ません。
何故かというと、ハンフリー視野検査(静的視野検査)は各測定点の閾値を計測しています。
閾値の決定というのは、50%の確率で見えることで決められます。
例えば、A(明るい)・B(薄暗い)・C(真っ暗)という3つの明るさの視標があり、それぞれ100回ずつ呈示するとします。
Aは99回(99%)反応
Bは50回(50%)反応
Cは2回(2%)反応
この場合、ちょっとでも見えたCを閾値としたいところですが、閾値はBになります。
実際の視野検査では、事前確率というものを使ってある程度の予測範囲内に閾値が収まれば測定は終了します。
はっきり見えた視標しか反応しないと正しい閾値まで到達しません。
何となく感じた視標に関してはしっかり応答ボタンを押していれば機械も正しい閾値まで到達します。
これまでがハンフリー視野検査を行うにあたってのコツでした。
次の章では少し深堀して、視標の見え方について細かく話したいと思います。
興味がある方は読んでみてください。。
視標の見え方感じ方
たぶん検査していて以下の2つに関して疑問に思うと思います。
検者と患者のエキスパートの立場から少し解説したいと思います。
1.視標の大きさの違い
検査していると、大きい視標と小さい視標が出ていると感じると思います。
でも実は呈示している視標の大きさは全て直径 2.26mm (0.43°) で一定です。
何故検査していて視標の大きさに違いを感じるのでしょうか?
それは、眼の中の視細胞といって情報を認識する細胞と神経節細胞といってその情報を脳内に伝える細胞の分布の度合いが関係します。
またそれの情報を処理する脳の中枢の機能が複雑に関係してきます。
中心視野に近い領域ではどちらの細胞も沢山あるので視標の大きさの違いをあまり感じません。
しかし、周辺視野になるにつれてどちらの細胞の分布も低下します。
その結果、周辺視野になると目の解像度は落ちるので明るい視標でも小さく感じます。
ハンフリー視野(静的視野)の検査中は、色々な明るさの視標が中心・中間・周辺部位にランダムに呈示されます。
その結果、視標の大きさに差を感じてしまうのです。
これは正常な目でも絶対に起こることなので、視標の大きさに関係なく見えたものはすべてボタンを押しましょう。
2.視野異常があるところの見え方
これを読んでいる方の視野異常の状態にもよりますが、正常部位と異常部位では見え方が違うと思います。
僕のようにだいぶ視野異常が進行すると、白いはずのドーム内が暗く感じます
以下に示す図は実際に正常部位と異常部位での見え方を再現しました。
まず1つめに気付くと思いますが、ハンフリー視野検査の結果で黒くなっているからといって視野も黒いわけではありません。
その理由の1つ目は、視野検査で使用する一番明るい視標は 10,000asb という明るさで、これが見えないと結果では黒くなります。
しかし実際はもう少し明るい光は認識できる視機能が残っているからです。
勿論完全に神経節細胞が死んでしまったら真っ暗になります。
2つ目の理由は、filling-in (補填) 現象が起こり、ある程度見える領域の中に見えない部位があっても、見えている領域の色によって脳内で補填されるからです。
話しが脱線しましたが、正常部位と異常部位での見え方の再現に戻ります。
実際に視野異常があると、視標が綺麗な円形に見えなかったり、1/3の三日月様に見えたり様々です。
検査をしていて丸い視標に拘ることなく、何となく光を感じたらボタンを押してください。
細かい話しですが、機械の測定アルゴリズムの中には感度が低下した部位は反応がばらつくという変数が組み込まれています。
そのためある程度のばらつきを考慮して閾値を決定しています。
あまり考えながら検査するのではなく、何となくでも見えたらボタンを押すことを心がけてください。
さいごに
今回は、緑内障患者さんがハンフリー視野検査(静的視野検査)を上手く行うためのちょっとしたコツ6選をお話ししました。
また、実際に正常部位と異常部位ではどのように見えているのか視能訓練士、研究者、患者である僕自身が再現してみました。
緑内障患者さんだけではなくハンフリー視野検査(静的視野検査)を行う視能訓練士や看護師にも分かって頂けたら幸いです。
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