カナダでは2018年10月から娯楽目的での大麻の使用が合法になりました。
そのため週末の夜はそこらじゅうで大麻の匂いが漂っています。
決して日本では経験できない臭いを嗅いでいます。
大麻は悪い印象しかないと思いますが痛みを緩和させる医療目的で使用されたりします。
色々調べていたら緑内障治療目的に使用した文献を見つけました。
今のところ僕の周りのカナダの眼科医が緑内障患者に治療目的で大麻を用いているのは見たことも聞いたこともありません。
むしろ人体への好ましくない作用の方が上回るので控えた方が良いと言っているくらいです。
そこでちょっと気になったので文献を読んでみました。
結論から先に言うと以下3つになります。
・大麻は一時的に眼圧を低下させるが作用時間は短い
・他の望ましくない作用が上回るので推奨できない
・カナダ眼科学会は大麻での緑内障治療を支持していない
因みに過去の記事で大麻の成分などを説明した記事をまとめているので、興味のある方は読んでみてください。
皆さん大麻のお店を日本で見たことありますか?絶対にないと思います。カナダは2018年から娯楽目的での大麻の使用が合法とな…
カンナビス(大麻)で眼圧が低下?
今は大麻が規制されている国が殆どなので古いデータしかありません。
1971年にJAMA に掲載された Hepler et al. のレターを紹介したいと思います。
11例の健常若年者に(平均27.6歳)、0.9%THCの大麻を吸わせ、前後1時間の眼圧を計測しました。
論文には全生データが載っていますが平均した値を以下に示します。
吸引前 (mmHg) | 吸引後 (mmHg) | 下降率 (%) | |
右眼 | 15.1 | 11.1 | -25.4 |
左眼 | 15.5 | 11.5 | -24.2 |
この論文では1時間後の眼圧が低下したのは確かであることしか証明されていません。
そこでさらなる追加検討として経時的にデータを計測した研究があります。
1980年に Ophthalmology に掲載された Merritt et al. の報告をご紹介します。
緑内障患者18例32眼を対象とした研究です。
9症例には大麻を吸わせ、残りの9症例にはプラセボを吸わせたデザインです。
緑内障患者の体重を考慮して、 2%ΔTHC を含んだ 0.9g の大麻を 10-20 分吸わせ、
15分、30分、60分、90分、120分、150分、180分、240分
と経時的に眼圧、血圧、脈拍を計測しています。
まずは眼圧の結果から。
大麻吸引後30分後から低下し始め、1時間後に最大になり、約1.5時間キープ、その後効き目が切れ上昇を開始、4時間後にはベースラインに戻る。
といった感じですね。
約 30mmHg の眼圧が 22mmHg に低下したので下降率は約 27% です。
ただ効き目が1~2時間と短いのが特徴です。
次に血圧の結果です。
眼圧同様に、30分後から収縮期・拡張期共に低下しており、収縮期の方が低下の度合いがやや大きいですね。
最後に脈拍の結果です。
15分後に心拍数がかなり増えています。
心臓が弱い方にはかなり負担がかかりそうですね。
でも2時間くらい経つと元に戻っています。
2論文のまとめ
・大麻使用後約 25%~30% くらい眼圧が低下する
・持続時間は極めて短い
カンナビスと目薬の結果を比較してみましょう。
僕の以前のボスが Lancet に発表した UKGTS の結果と比較してみましょう。
ラタノプロストでは 20% 低下することが分かっています。
しかも、UKGTSのラタノプロスト群のベースラインの眼圧の平均は 19.6mmHg。
おそらく、ベースラインの眼圧が 30mmHg であればラタノプロストの眼圧下降率は30%を超えると思います。
大麻の慢性的な使用は人体に悪影響を与えることがわかっています。
その一方で、点眼薬(ラタノプロスト)は人体への影響は殆どありません。
またラタノプロストは効き目が24時間近くあるので一日一回の点眼で済みます。
大麻の場合どうでしょう、朝、昼、夕、寝る前とかなり高頻度に使用しないといけませんね。
費用・人体への影響を考えると、例え眼圧が下がったとしても、緑内障のような慢性疾患には不向きですね。
カンナビス(大麻)で神経保護作用?
結論を先に言うと現時点では大麻に神経保護作用はあるとは言い切れません。
比較的最近の研究論文ですが、マウスを使った実験で、もしかすると神経保護作用があるのでは?
という論文が、2007年 Crandall et al. によって Ophthalmic Res に報告されました。
14匹のマウスの片眼に高眼圧を誘発させる処置を行い、7匹はTHC(大麻)を、残りの7匹は賦形剤(プラセボ)を毎週注射し、20週間経過観察しました。
Crandall et al.の結果では、THC(大麻)治療した群は眼圧は勿論下がっていましたが、神経節細胞の減少も少なかったと報告してます。
下の電顕写真は典型的な代表例のものです。
写真左側の Operated が人工的な眼圧上昇を施した処置をした眼で、Untreated は賦形剤(プラセボ)を注射した眼、THC treated は大麻治療した眼です。
大麻治療した眼の方が細胞の減りが少なかったと主張しています。
下の棒グラフは、全マウスの神経節細胞の減少率を平均したものです。
全マウス片眼は正常なので、その正常眼と比較してどれだけ神経節細胞が減ったかパーセンテージで表しています。
プラセボを投与していた眼は約50%の神経節細胞が消失しましたが、大麻治療をしていた眼は約15%しか消失しなかった。
というのが結果です。
ただ、この実験モデルでは、実際に大麻が神経を保護したのか、眼圧が低下したことによって神経が保護されたかは証明できていません。
違う薬剤を投与して治療をしたマウスのデータも必要だと思います。
そのため、現時点では大麻に神経保護作用はあるとは言い切れません。
しかもまだマウスの段階なので。
着眼点は大変興味深いので、追加の情報を期待したいですね。
カナダ眼科学会は緑内障治療に大麻の使用を支持していない
誤った知識が蔓延しないように、今までのエビデンスに基づいて、Canadian Ophthalmological Society と Canadian Glaucoma Society は声明を出しています。
その声明では、大麻の静注、吸引、点眼など様々な研究が行われてきたが、現時点で有害事象の方が上回っているので学会としては支持しません。と言っています。
勿論、禁止を強制をしているわけではなく、学会としては緑内障治療に大麻を用いることに賛成はしません。という意味です。
しかし、今後有力なエビデンスを持った論文が報告されたら、方針は変わるかもしれません。
あくまでも、現時点では緑内障への大麻治療は支持していません。
さいごに
緑内障進行のリスクファクターの1つに、喫煙の有無が関与しているのはいくつか報告があります。
大麻もなんか関係していそうな感じがしませんか?
こんな研究絶対日本ではできないので、カナダでやってみようかなぁ。
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