OCT Angiographyの早期緑内障の検出力はどれくらい?実はそんなに高くない【眼科医・視能訓練士向け】

  • 2019年12月6日
  • 2023年12月15日
  • OCT
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2015年くらいから臨床で使用されるようになったOCT Angiography (アンジオグラフィ―) 。

最近では OCT-A という言葉が定着してきたので OCT-A と略していきます。

OCT-A は、網膜表層の変化がメインの緑内障より、網膜全体が変化する網膜疾患で力を発揮します。

しかし、緑内障眼でも黄斑部や視神経乳頭周囲の網膜表層細網膜血管網 (Superficial Vascular Plexus: SVP)の消失が起こることが分かり、研究が進んでいます。

漢字が多くて難しい文章になりましたが、簡単に言うと、

表面の細かい血管が消失する

という意味です。

ここ数年で、緑内障眼の研究データが集まったので、SVP の指標は大体どれくらいの異常検出力があるかまとめたいと思います。

結論から言いますと、

・緑内障早期の段階から SVP の消失は始まっている

・GCL や RNFL の厚みの変化の方が OCT-Aより緑内障検出力は良い

・緑内障検出力はだいたい70%から80%くらい

(2019年12月現在)

それでは少し深堀していこうと思います。

ちなみに、青文字の部分には参考文献(PubMed)へアクセスできるようにURLが添付されています。

論文を書く時や、論文の全文が読みたい時にご活用ください。

今回の記事では、緑内障眼で SVP の消失が生じた論文の紹介、緑内障検出力の総まとめ、OCT-Aで緑内障眼を評価するにあたっての欠点、について書いてあります。

緑内障眼と網膜表層毛細血管網の関係

2012年に、Jia et al. が OCT を使ったアンジオグラフィを開発し、正常眼での撮像を行いました。

超ざっくり一言で OCT-A を言い表すと、

OCTの原理で取得した画像を特殊な計算を交えることで、血管の状態を明瞭にする技術

です。

要は、ベースは OCT なので、非侵襲的に血管の状態が撮像できる優れものです。

Jia et al. が最初に報告した論文のの写真がこちらです。

太い血管は勿論のこと、通常のOCT撮像では写らない毛細血管まで写っていますね。

2012年から OCT-A のテクノロジーは始まっていました。

その後、同研究チームの Liu et al. によって緑内障眼での撮像が行われました。

上段が正常眼、下段が早期緑内障眼の写真です。

この写真からわかることは2つあります。

1つ目は、全体的に下段の OCT-A の写真は暗いのが分かると思います。これがSVP の全体的な消失です。

2つ目は、視野異常に対応する下耳側の部位(白矢印)の SPV が局所的に大きく消失しています。

このあたりから、写っている血管の密度を Vessel density または Perfusion density という指標に変換する方法が始まりました。

簡単に言うと、写真の白と黒の比率で密度を表す手法です。

最近では、これらの指標を使用し、早期の緑内障の検出ができないか?緑内障の進行評価に使いえないか?など様々な観点で研究が行われています。

今回は、OCT-Aの緑内障の検出力はどのくらいなのかまとめました。

OCT-A 緑内障検出力の総まとめ(2019年12月現在)

以下の表に結果をすべてまとめたのですが、見方を説明します。

Authors・・・筆頭演者の名前

対象者MD・・・24-2のMDです。これで病期を示しています。

AUC・・・Area Under the Curve といって、異常者を異常と判定できる割合と正常者を正常と判定できる割合をもとに計算された曲線下の面積を表します。この数字が大きいほど診断精度が高いことを表します。

AUCの値の大きさの意味は分野によって若干異なりますが、緑内障の視野やOCTの分野では、

AUC が 0.8 を超えていると診断能力が高い

AUC が 0.8 を下回ると診断能力はまぁまぁ

といった解釈です。

24-2のMDを使って表される緑内障の病期が軽い方から順に並べてあります。

同じ論文内で、早期、中期、後期のように様々な病期で検討している論文は、別々に表記しています。

Authors 対象者MD AUC 黄斑 AUC 乳頭
Hou et al. -0.3 dB 0.71
Yarmohammadi et al. -0.4 dB 0.70 0.65
Penteado, et al. -0.4 dB 0.71
Chihara et al. -0.6 dB 0.72
Lu et al. -0.9 dB 0.77 0.88
Hou et al. -2.1 dB 0.74
Chung et al. -2.4 dB 0.61 0.75
Geyman et al. -3.2 dB 0.90
Lu et al. -3.3 dB 0.92 0.97
Kwon et al. -3.6 dB 0.87
Yarmohammadi et al. -3.9 dB 0.94 0.83
Lommatzsch et al. -4.7 dB 0.78
Takusagawa et al. -5.3 dB 0.96
Rao et al. -5.3 dB 0.69 0.90
Rolle et al. -5.6 dB 0.62 0.90
Rao et al.  -6.3 dB 0.73 0.93
Rao et al. -6.3 dB 0.79
Penteado, et al. -7.2 dB 0.75
Chihara et al. -7.5 dB 0.83
Chung et al. -8.5 dB 0.80 0.91
Chen et al. -8.8 dB 0.94 0.89
Kwon et al. -9.0 dB 0.81
Wan et al. -9.4 dB 0.73
Chung et al. -20.1 dB 0.93 0.99

今のところ、これだけ報告がありました。

これらを全部ひっくるめて中央値で計算すると

全病期

黄斑部の検出力 0.75

乳頭部の検出力 0.88

MDが-6dBより良い早期症例の報告だけで中央値を用いて計算すると、

早期症例のみ(MD>-6dB)

黄斑部の検出力 0.73

乳頭部の検出力 0.88

さらにPre-perimetric glaucoma (PPG) といわれる、緑内障の眼底変化はあるが、明らかな視野異常がない極早期の症例に絞って中央値で計算すると、

PPGのみ

黄斑部の検出力 0.71

乳頭部の検出力 0.77

現時点では、OCT-A の緑内障検出力は GCL や RNFL などの厚みを評価するパラメーターと比較すると低めかと思います。

因みに、GCL や cpRNFL の緑内障検出力は、

PPG 症例では OCT-A と同等かそれより良くて

MD が -3dB より悪い症例 0.90 を超えます。

OCT-A も解析方法を工夫すれば、異常検出能力は上がるかもしれません。

なんせまだ研究は始まったばかりですからね。

OCT-Aで緑内障眼を評価するにあたっての欠点

① 太い血管の存在

SVPの密度は、白と黒の比率から算出されています。

白は血管がある状態、黒は血管がない状態です。

ここで1つ厄介なのが、太い血管の存在です。

すなわち、画像の中に太い血管が写り込むと密度が濃くなり、擬似的に高い数値が出てしまいます。

緑内障眼では、SVP は消失しますが、太い血管は消失しません

そうすると、数値を使って正常と異常の判別が難しくなってしまいます。

また、進行の評価でも SVP の変化が捉えにくくなります。

 

② 乳頭部位ではアーチファクトが多い

乳頭部位は太い血管が沢山あるので、①で述べたように解析が厄介になります。

また眼底の中でも、中心軸から少しずれたところに位置するので、画像の傾斜が解析を難しくします。

その他にも、乳頭のサイズに個人差が大きいことなどがあります。

最近の傾向ですと、黄斑部の解析に焦点が置かれています。

③ 黄斑部の解析領域

OCT-A は取得画像の量がものすごく多いので、解析領域が少し小さめです。

ソフトウェアの改良で少しずつ解析領域は広がっていますが、GCLとの撮像と比べるとやや小さめです。

網膜の神経節細胞は、中心窩よりやや周辺の黄斑部のところにピークがありますよね?

古いバージョンですと、丁度このピークくらいの領域までしか撮像できませんでした。

これが何を意味しているかというと、この部位は最後の方まで異常が現れないので、早期の検出という点では不利だったのです。

最近の改良で解析領域が広まり、改善しつつあります。

さいごに

今回は情報量が多かったので最後に復習です。

・緑内障早期の段階から SVP の消失は始まっている

・GCL や RNFL の厚みの変化の方が OCT-Aより緑内障検出力は良い

・OCT-A の緑内障検出力はだいたい70%から80%くらい

明日からの臨床や研究に活かして頂けたら幸いです。

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