ハンフリー視野計と言ったらSITAで計測するのが当たり前となっていると思います。
正式名称は Swedish Interactive Threshold Algorithm。
僕が一番最初に機械学習に触れたのはこのSITAの論文だったと思います。
参考までに。(今はPDF を Free で入手できます)
僕が学生の時と働き出した頃は全点閾値法がスタンダードでした。
そんな中、視野検査結果の精度を保ちつつ検査時間を 60-70% 短縮することができるSITAが現れたのです。
どれだけ凄いかと言うと、ぱかぱかのガラケーからいきなりスマホに変わったくらいです。
一瞬にして時代が変わったので、巷ではこの知識について行けず少しだけ誤解を招いてしまいました。
それが今回のタイトルでもあるように、SITAって緑内障患者に特化したアルゴリズムだから、他の疾患の視野検査に使ってはいけないんだよね?
ということです。
確かにデータベースが緑内障視野異常なので、これだけ聞くと緑内障だけにしか使えないと思ってしまいます。
しかし、結論を言うとSITAをどんな症例に使用しても問題ありません。
ただ、理由も知らずに使うのは良くないので簡単に説明したいと思います。
最尤法(さいゆうほう)
いきなり中国語みたいな難しい言葉が出てきて、脳ミソがぱんぱんになると困るので、物凄く砕いた表現で説明します。
意味は、もっとももっともらしい予測をする。と言う意味です。
全点閾値法は、最初に計測される x,y = (±9°, ±9°) の測定点から予測されるある一定の視標輝度から 4-2dB の上下法で最終的な反応がある(また無い)ところまで計測していました。
そのため、正常で真白な視野や逆に末期の狭窄した視野では比較的早く終わるのですが、それ以外では応用が利かず時間が長くなってしまうのです。
実際、視野異常のタイプは様々ですからこれじゃ上手く計測できませんよね。
SITAは、最初に x,y = (±9°, ±9°) の測定点から計測し、4-2dBの上下法を使用するまでは全点閾値と同じです。
しかし、次の測定点は隣接する測定点の閾値を参照にし、予想される輝度から測定されること、応答があった(無くなった)ところが予想される値になる確率が高かったら計測が終わります。
これが最尤法です。
なぜこんな事が出来るかと言うと、事前に正常なデータと視野異常がある人のデータが機械に搭載されていて、その値と照らし合わせながら確率分布がアップデートされていくからです。
簡単に言うと、全点閾値はアルゴリズムに人が合わせ、SITAはアルゴリズムが人に合わせるといった感じです。
緑内障眼のデータベース
誤解が生じたのはこれかもしれません。
データベースは公開されていませんが、SITAのアルゴリズムを動かすのに正常者のデータと視野異常のデータが搭載されています。
視野異常の検査をする人は緑内障患者なので、視野異常のデータベースは緑内障眼が基になっています。
そのため、多くの人達は「緑内障患者にしか使えないのでは?」と思ったのでしょう。
実際、視野異常がある部位の感度のばらつきは、疾患に関係なく大きいのは昔から分かっており、その点もアルゴリズムに考慮されています。
またSITAでは計測しながら情報がアップデートされていくので、緑内障以外ではアルゴリズムが対応できないということはありません。
一つだけ苦言を呈すると、SITAのアルゴリズムの補正項に神経線維の走行が組み込まれています。
詳細は明かされていませんが、弓状の神経線維の走行とは関係のない半盲の視野などは若干予測から外れるかもしれません。
しかし、SITAでは最終的に閾値計測が収束するときの確率の誤差が大きい場合、その測定点は従来の全点閾値法で計測をやり直します。
つまり、緑内障患者よりちょっとだけ測定時間が長くなるだけで視野検査には問題ないのです。
これは緑内障の視野異常でも生じる事で、異常部位が繋がっていない孤立した視野異常では測定時間がすこし長くなります。
以上をまとめると、SITAはどんな疾患で測ろうと問題ないのです。
さいごに
SITAのアルゴリズムを語ると本当はもっと細かく、難しい統計用語が沢山出てきます。
今回はかなり砕いた言葉でまとめましたが、気になる方は冒頭で添付した原著論文でお勉強してみてください。
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