ハンフリー視野計をやっている時に、「ピピッ」って警告音が鳴ると焦りますよね。
特に1人で 2,3台動かしているときですね。
警告音の95%くらいは「コシフリョウ××」となったため鳴りますよね。
この時に現状確認もせずに「検査中まっすぐ見て下さい」と促すのはちょっと良くないです。
っと言うよりも警告音が鳴った時点でもう手遅れなんですがね…。
今回は、ハンフリー視野計の信頼性指標の「コシフリョウ××」になる前に色々やるべき対処法についてお話ししたいと思います。
結論は、最初の1分は目視による監視、固視不良1/1の時に原因を究明し対処、それでもダメなら諦める。
最後は若干投げやりに聞こえますがちゃんと意味があるので読んで頂けたら幸いです。
尚、視野計の立ち上げ・準備・説明などの基本的な内容はこちらを参考にしてください。
視野検査の中でも今回は静的自動視野検査のお話しです。自動視野計はスタートボタンを押すだけなので、大した手技は必要ないと思っていませんか?そう思っていた方は是非、僕のブログを読み漁って考えを改めて下さい。視野検査は自動で行われ[…]
コシフリョウの原理
中心の固視灯をしっかり見ていれば、盲点に視標が呈示された時に反応が無いはず。
というのが、コシフリョウの原理です。
Humphrey視野計では、15度耳側、1.5度下方に盲点があると仮定し、検査開始直後に1度視標が呈示されます。
この視標呈示はカウントされません。
視標を盲点に呈示した時に反応があると、最初だけ機械が盲点の再チェックを行います。
全体の視標呈示回数の約5%(20回に1回)の頻度で呈示されます。
下の図はマリオット盲点の大きさと視標の大きさを表した図です。
盲点の大きさは平均すると横5度、縦7度の楕円と言われています。
静的視野検査では Goldmannサイズでいうと III(直径0.43°)が使用されています。
これを見て気づくと思いますが、もし盲点の中心に視標が呈示された場合、横は約2.3度、縦は3.3度くらい視線が動かないとコシフリョウは検出されません。
プリズムで言うと横4△、縦6△の動きですからモニター上でばっちり分かるくらいの動きです。
すなわち、盲点の位置がしっかり設定さていれば、大きな目線の動きが随時起こってない限り、真のコシフリョウは生じにくいと思います。
因みに、
コシフリョウ(%)= 応答した回数 / 盲点に呈示した回数
で計算されます。
この比率が20%を超えると××が付き、事実上信頼性のない結果として扱うことになる。
測定点の中にある△マークが盲点の中心です。
最初の1分の監視が大事
自動視野計だからスタートボタンを押し、あとは宜しく。
なんてことは絶対にありません。
最初の1分で結構大事な情報を得る事ができます。
適切な応答かチェック
計測前にゲイズ設定ができていると、検査中に視標が呈示されるごとにアイモニターが点滅します。
モニターを見て応答ボタンの音を聞いているだけで、視標呈示に対して適切に応答しているか分かります。
視標に対して適切に応答していない場合、モニターの点滅とボタン音のリズムがズレているので偽陽性の反応が多いことが分かります。
盲点の位置のチェック
上記のコシフリョウの原理でも述べましたが、開始早々に一度だけカウントされない盲点への視標呈示が行われます。
なぜこれが行われるかと言うと、盲点に相当する視神経乳頭の位置は人によって様々だからです。
中心窩と視神経乳頭の角度を計測した過去の報告によると、平均7.2度で2.8度から15.1度のばらつきがあったそうです。
すなわち盲点の位置15度耳側の部分で換算すると、盲点の平均の位置は1.5度下方で合っていますが、0.7度下方から4.0度下方までとばらつきがあります。
中心窩と視神経乳頭の角度が大きい方は、最初に設定されている盲点の位置ではいくら固視が良くても、刺激に対してしまいますね。
コシフリョウ 1/1 の時に原因を究明
24-2 SITA Standard を使用していると、盲点への使用呈示回数は12~16回ほどです。
つまり3回反応してしまうと20%を超えるので、事実上信頼性のない結果になってしまいます。
そのため、1/1の時に対処しないといけません。
もう一度盲点の大きさと視標の大きさの図を見て下さい。
先ほども少し触れましたが、盲点の大きさに対して視標はかなり小さいです。
盲点の位置がちゃんとした位置にあり、固視もしっかりしていたら、よっぽど固視が悪くない限りコシフリョウの応答は出ません。
それでは何が原因なのでしょうか?
考えられるものとして、頻度が多い順に並べました
① 偽陽性の反応が多い
ここで言う偽陽性は、誤った応答の事です。
視野検査は心理物理検査ともいわれ、人それぞれ見え方の感じ方は違います。
実際に視標は見えていなくても見えたと感じてしまい、反応してしまう事があります。
視野検査は疲れるのでやりたくない人が殆どで、中には若干投げやりで行う人もいます。
視野異常が進行していると心配だから、少しでもいい結果を出そうと多めに反応する方もいます。
こういった偽陽性の反応をチェックするには、被験者に予告することなく数秒間一時停止するとよいです。
その際に何度も反応がある場合、「視標が出ていない時にもボタンを押しているので、見えたものだけボタン押してくださいね」と言いましょう。
あまり何度も言うと、被験者も何が見えていて何が見えていないのか分からなくなるので、1回の検査で何度も言うのは避けましょう。
このように偽陽性の反応が多い方は、実際に見えていないはずの盲点への視標に対しても反応している可能性があります。
② 機械が設定した盲点の位置が適切ではない
先ほども述べましたが。検査開始直後にカウントされない盲点への刺激が1回だけ行われます。
以下の様に中心窩と視神経乳頭の角度が大きく、盲点の位置が下方にズレている場合どうなるでしょう?
検査開始直後のの呈示で反応が無ければ、盲点の位置△はこの位置でスタートします。
ただ、固視微動といってヒトの視線はちょっと動いています。
こういった場合、機械が設定する盲点の位置を実際の盲点の中心に持ってこないと、たまに盲点への刺激が見えてしまいます。
被験者に固視を促したうえで、盲点の再チェックをしないといけません。
偽陽性の応答がそんなになさそうな場合、まずこれを疑いましょう。
何度が再チェックして、盲点の位置が変な場所に設定されてしまうことがあります。
元の15度耳側、1.5度下方に戻したい場合は、一度盲点の監視をOFFにして、再度ONにすると最初の位置に戻ります。
③ 鼻側のガーゼが剥がれている
お化粧が濃い方や、皮脂が多い方はガーゼを止めているテープが剥がれやすいので、検査前にしっかりテープで補強しましょう。
申し訳ないなという遠慮からテープが剥がれ、再度やり直しさせる方が申し訳ないので、被験者にしっかり説明してガーゼがはがれないようにがっちりテープで止めしょう。
もし剥がれた状態で検査が続いた場合、速やかにやり直しましょう。
盲点への刺激だけではなく、その他の測定点への刺激に対して両眼で見ていたことになるのでね。
④ 顔の位置・姿勢が合っていない
検査を始める前は良かったかもしれませんが、少し我慢していて途中から額がかなり離れていたり、顔が傾いていたりすることもあります。
しっかり被験者の後ろまで回って状態を確認することも大切です。
あまりにズレが大きいと、固視が安定していても盲点の刺激に反応することがあります。
⑤ 固視している位置がずれている
中心視野が保たれていても、視野異常が固視点近傍とくに上方にあると生じやすいです。
実際に僕の左眼はまさにその典型例です。
少し視線を上に向け、下方視野で見るとクリアになるので、片眼で固視すると意識していないと固視が上にズレます。
中々モニター上で検出するのは難しいのですが、固視が少し上にズレているので盲点の再チェックをすると、盲点の位置が上の方にズレるのが特徴です。
盲点は基本的に水平線より下方にあり、上に出る事は少ないのでそういった場合は疑ってみてください。
⑥ 本当にキョロキョロしている
初めての方や慣れていない方は、最初の時間帯の固視が不安定な事があります。
最初の1分は必ず監視しましょう。
また、アルゴリズム自体が x, y = (±9°, ±9°) の所から計測されていくので、検査の序盤は周辺視野の計測になります。
広い範囲でランダムに視標がでるので、検査序盤でも固視が不安定になることが多いです。
検査中に視線が動くと検査の意味がなくなってしまう旨をしっかり伝えれば、大抵の方は最後まで固視は安定します。
実際にキョロキョロ動いていても、ものすごくばらついた結果にはならない事が多いです。
注意してもキョロキョロする方は、たぶん視野検査には向かない方なのです。
何度も何度も注意すると更に視野検査が嫌いになってしまいます。
緑内障早期であればOCTで経過を追う事も出来るので、違った方法を考えるのも良いです。
さいごに
最初の1分くらいでの対処を主にまとめました。
これらの事がクリアになっているのに、盲点の刺激に沢山反応する場合、諦めて見守るのが良いと思います。
何故かと言いますと、冒頭でもお話ししましたが、視野検査は心理物理的検査なのです。
心理的な要素があるので、上手くできる人を基準に考えてはいけません。
人それぞれ見え方の感覚が異なるのです。
Fixation Loss(コシフリョウ)と命名されてしまっただけに、この比率が高い=固視が悪いと思われがちです。
しかし実際に固視が悪い人は少ないです。
検査中モニター上で固視が良いにも関わらず、コシフリョウの比率が高い場合、必ず「検査中の固視良好」と記録を残しましょう。
この記載が多い方は、偽陽性反応が多いのかな?中心窩ー乳頭の角度が大きいのかな?など次検査する方に情報を伝えられます。
また診察室で先生が患者さんに説明するときに、実際には固視が良かったのにキョロキョロしてましたね、などの間違った説明がされないよう予防できます。
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KazukunORTPhD、 hirachan_ort_phd、 留学先ハリファックスのブログ
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